ヒアリ

数日前の朝、新聞を取りに玄関の外に出たとき、ピアノの音がぽんと鳴ったような気がした。あれっと思うと、もう一度ぽんと鳴った。近くで鳴ったような音だった。

家の中に戻ってピアノの蓋を開けて弾いてみたら、ラ、シ、の高さだったことがわかった。そういう空耳だと思うことにした。

朝、小学校の脇を通るときに子供の声が聞こえた。「ヒアリ、ヒアリ! ヒアリつかまえた! ヒアリ!」 興奮した話しぶりだった。

ヒアリは確かに脅威であろうが、距離的に、この時期にこの地域まで拡散している可能性は限りなく低いと思った。それに、そもそもこの子はヒアリとそれ以外のアリをどうやって識別したのだろう。

小学生の男の子がやりそうな言動ではある。ただ、僕は、風評の発生原理の原型を見るような思いがした。

こういうことについては、本当は、言ったその場でいちいち手間をかけて説明してやらないと、事実を識別する習慣が身につかないかもしれない。

僕は塀の外を通りがかったヨソのおじさんなので、介入しませんけれども。

夕方の高校の正門。生徒達がぞろぞろ出てきて、門のあたりに溜まったりもしている。かけ声のようなものが響いていたのだが、近づいてみると、クラブの練習のかけ声のようなものではなくて、下校の挨拶を言っているのだった。それが、意図的に大きな声を出しているのだが、型の定まったかけ声のようなものに定型化していなくて、偶発的に自主的に言っているのだった。定形化したかけ声ではないので音響のカオスだが、むしろナマのままの活気を見たような気がして、良いと思った。

女子生徒の一人が少し離れたところで、自転車にまたがったまま止まって、参考書を読みふけっていた。こういうことへの感じ方は様々だろうとは思うが、僕は、いいぞその調子でのめり込んじまえと、応援したくなった。

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